大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成2年(ワ)13153号 判決 1991年11月29日

原告

矢浦一仲

ほか一名

被告

株式会社朝田商會

ほか一名

主文

一  被告らは、連帯して、原告らそれぞれに対し、一九〇万三八八一円及びこれに対する平成元年一月一八日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを五分し、その三を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は原告ら各勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、連帯して、原告らそれぞれに対し、五〇〇万円及びこれに対する平成元年一月一八日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二請求の原因

一  原告らの子矢浦久美子(以下「久美子」という。)は、昭和四三年一二月九日生まれで、後記本件事故発生日である平成元年一月一八日現在二〇歳であり、訴外東洋酸素株式会社川崎事業所に勤務していたが、本件事故により頭蓋骨骨折、脳内出血、脳室内出血、びまん性脳損傷、外傷性くも膜下出血等の傷害を負い、同日午前一一時二九分ころ死亡した。

二  本件事故の発生

1  日時 平成元年一月一八日午前八時ころ

2  場所 神奈川県川崎市川崎区水江町一番一号先道路上

3  加害車両 被告株式会社朝田商會(以下「被告会社」という。)所有の大型貨物自動車(タンクローリー車、習志野八八に二五四五、以下「加害車両」という。)

右運転者 被告岩田直行(以下「被告岩田」という。)

4  被害車両 自動二輪車(二五〇CC、一川崎チ八五六〇、以下「被害車両」という。)

右運転者 久美子

三  本件事故態様及び責任原因

1  被告岩田は、前記場所付近左車線塩浜運河入り口付近において、廃油の荷降ろしのため、塩浜運河方面にバツクで進入するために、右側車線及び左側車線にまたがつて斜めに停車しようとして、右側車線の通過車両を右手前方に見ながら左側車線を進行し、右側車線に加害車両の前半部を進入させ、右側車線及び左側車線にまたがり斜めに停車させるためハンドルを右に切り、なおも進行しようとした。

このような場合、右側車線への割り込みが一般的な割り込みに比べて、割り込み角度が大きく、右側車線及び左側車線を急激に閉塞するおそれがあり、かつ、右側車線の後方を進行してくる車両からは、加害車両の動静を遅滞なく判断できないのであるから、右側車線の後方の車両に十分注意して進行すべき義務があるのに、これを怠り、漫然とハンドルを右に切つて、右側車線に進入し、右側車線全部及び左側車線一部を急激に閉塞した過失により、おりから右側車線の後方を同方向に進行していた久美子運転の被害車両の進路を妨害し、被害車両を加害車両の後部に追突させた。

よつて、被告岩田は、右過失により本件事故を発生させたのであるから、民法七〇九条にもとづき原告らが被つた損害を賠償すべき責任がある。

2  被告会社は、同会社の業務である廃油輸送のため加害車両を所有し、被告岩田を雇用して廃油輸送に従事させていたものであるが、本件事故は、塩浜運河において廃油を積み降ろそうとし、運搬していた途中において発生させたものである。

よつて、被告会社は、加害車両を自己のために運行の用に供している者であるから、自賠法三条にもとづき原告らが被つた損害を賠償すべき責任がある。

四  損害

1  逸失利益 二九五五万八六〇六円

2  慰謝料 二〇〇〇万円

3  葬儀費用 一五一万九九〇〇円

4  弁護士費用 相当額

五  填補

原告らは、二五一二万七四〇〇円の支払いを受けた。

六  よつて、原告ら各自は、被告らに対し、右差引損害額合計金額の内金として各五〇〇万円及びこれらに対する本件事故日である平成元年一月一八日から各支払い済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いをそれぞれ求める。

第三請求の原因に対する認否

一  請求の原因一項は認める。

二  同二項は認める。

三  同三項の1は争い、2については、被告会社が自賠法三条の運行供用者の地位にあることは認める。

四  同四項は知らない。

五  同五項は否認し、争う。

六  同六項は争う。

第四抗弁

一  本件事故は、停止している加害車両に被害車両が衝突して発生したものであるが、被害車両の走行状況は、その衝突の態様、制動痕などからして、かなりの高速で走行していたと考えられ、また、制動痕が本件事故現場の手前二二・四メートルしかないことからすると、久美子は、そこまでの間の前方の注視を怠つていたものと考えられる。本件事故現場から加害車両の後方の見通しが三〇〇メートルあつたから、久美子からみても前方三〇〇メートルの見通しがあつたということであり、仮に、被害車両の走行速度が時速六〇キロメートルとすれば、三〇〇メートルを走行するのに要する時間は一八秒であるから、その間、加害車両の動静は十分に確認できたはずである。そして、加害車両は、停止していて、歩道寄りの車線の左側が三メートルの間隔であいていたから、ここを通過することは十分に可能であつた。以上のことからすると、本件事故の原因の大半は、久美子の落度によるものである。

二  被告会社は、原告ら主張の填補額とは別に、五〇万円を支払つている。

第五証拠

本件記録中証拠関係目録記載のとおりである。

理由

一  請求の原因一項及び同二項については当事者間に争いはなく、同三項については成立に争いのない甲第一号証、甲第二号証、甲第九号証、甲第一〇号証、甲第一六号証の一、二、甲第二〇号証、本件事故現場の写真であることに争いのない甲第二五号証の一ないし四、甲第二六号証の一、二、証人土肥義明の証言、被告岩田直行本人尋問の結果、弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

1  本件事故現場は、産業道路方面(北方)と京浜運河方面(南方)とを結ぶ道路(市道さつき橋水江線、以下「本件道路」という。)で、道路西側には京浜製作所水江水門があり、東側には塩浜運河出入り口道路がある。本件道路の全幅員は約二三・四メートル、車道幅員は約一三・五メートル(片側各二車線)で、西側車線幅員は各約三・二、東側車線幅員は第一車線約三・四メートル、第二車線約三・一メートル、チヤツターバーのある幅員約〇・六メートルの中央線があり、道路両側に幅員約〇・七メートルの道路外側線、道路西側に幅員約四メートルの歩道、道路東側に幅員約四・五メートルの歩道があり、路面はアスフアルト舗装、平坦、直線道路であり見通しは良く、京浜製作所水江北門と塩浜運河出入り口道路とを結ぶ北側に横断歩道が設置されている。

本件道路の最高速度は時速五〇キロメートル、駐車禁止(終日)の交通規制がなされている。

2  被告岩田は、タンカーに降ろす廃油の運搬のため加害車両を運転し、塩浜運河船着き場に行くため、進行方向左側にある塩浜運河船着き場に入る際、塩浜運河出入り口道路の形状からバツクして入らざるをえないことから、前記横断歩道の手前で道路左側の第一車線上に停止した後、後方を確認して、第二車線上を一台車が接近して来ているのを認め、これを通過させてから、約一一・七メートル前進し、塩浜運河出入り口道路前付近でハンドルを右に切つて右斜めに進行し、第一車線から第二車線に入り、約一四・九メートル進行して第一車線と第二車線の両車線にまたがつて加害車両を右斜めに停車させて両車線を閉塞し、その後、バツクするため後方を確認したところ、後方約四六・三メートルの地点の第二車線上に被害車両を認め、危険を感じたものの閉塞を解くため何らの措置を取ることなく、第二車線等を閉塞したまま停車していたところ、東側歩道から約四・二メートルの地点で加害車両後部に被害車両前部が衝突した。

3  被害車両は衝突地点で転倒し、衝突地点まで被害車両による長さ約二二・四メートル、幅約〇・四メートルのスリツプ痕一条が印象されている。

加害車両の後部バンパー(地上から高さ約〇・九四メートル、バンパー幅約〇・二メートル)の中央部(後部右から約一・二メートル)がくの字に凹損(へこみ約〇・一四メートル)し、同バンパーに長さ約〇・〇六メートルの亀裂が認められ、ナンバープレート上部のボデイ部にこすり痕が認められ、また、後部バンパースカート部(地上から高さ約〇・五メートル)が凹損し、予備タイヤにこすり痕が認められ、同所に被害車両のボデイカバー等が散乱している。

被害車両は前照灯、風防カバーが破損し、前輪が後方にくい込み、前部が大破し、ハンドルが曲損し、右側部に曲損し、右側マフラーにこすり痕が認められ、回転メーター計は五三〇〇で停止している。

以上の事実からすると、被告岩田は、車両が通行する本件道路の第一車線と第二車線とを閉塞する形で加害車両を停止させるのであるから、交通等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないよう運転すべき注意義務があるところ、後方から走行してくる車両の安全不確認のまま加害車両を停止させた過失があるから、民法七〇九条にもとづき原告らが本件事故で被つた損害を賠償すべき責任があり、被告会社は、加害車両を所有し、自己のために運行の用に供していたことが認められるから、自賠法三条にもとづき原告らが本件事故で被つた損害を賠償すべき責任がある。

二  損害

1  逸失利益 二九五五万八六〇六円

成立に争いのない甲第五号証、甲第六号証、証人土肥義明の証言、弁論の全趣旨によれば、久美子は、本件事故当時、二〇歳の健康な女子で、訴外東洋酸素株式会社川崎事業所に勤務していたものであるから、本件事故で死亡しなければ、六七歳までの間稼働可能であり、その間女子の全年齢平均給与額の月額一九万五七〇〇円(年額二三四万八四〇〇円)を得ることができたものと認められるので、これを基礎に、生活費控除率を三割とし、ライプニツツ方式、係数一七・九八一で現価を算定するのが相当であるから、逸失利益は二九五五万八六〇六円となる。

2  慰謝料 一八〇〇万円

久美子の年齢、性別、経歴、収入、家族関係等諸事情を考慮し、一八〇〇万円が相当と認められる。

3  葬儀費用 一〇〇万円

証人土肥義明の証言、弁論の全趣旨によれば、原告らは、久美子の葬儀を営み、多額の費用を要したことが認められるところ、本件事故と相当因果関係のある葬儀費用は一〇〇万円が相当と認められる。

4  以上損害額合計 四八五五万八六〇六円

三  過失相殺

本件道路は、道路幅も広く、見通しも良く、最高速度も時速五〇キロメートルと比較的速いから、スピードを出す車両もあることも予測でき、駐停車車両があるとしても、道路の左側端に沿い、かつ、他の交通の妨害とならないようにする(道交法四七条)のが通常なので、後続車両において、第一車線上に駐停車車両が存在することをある程度予想して運転していても、第二車線上の停車車両を予想して運転することは少なく、右斜めの形で停止するかどうかは後続車にとつては判断しにくい面もあるから、被告らにおいて誘導員をおくなどして停止することを後続車に知らせる措置を徹底するのが相当であり、また、被告岩田は、後方の見通しも良かつたのであるから、後続車に対する配慮を十分できるのに、これを欠いた過失があり、久美子においても前方不注視、速度超過等の落度が認められるから、双方の過失の内容、程度、車種、道路状況、交通量等諸事情を考慮し、四割を過失相殺するのが相当である。

過失相殺後損害額合計 二九一三万五一六三円

四  填補

証人土肥義明の証言、弁論の全趣旨によれば、原告らは、本件事故に対する損害賠償として二五六二万七四〇〇円の支払いを受けたことが認められる。

填補額控除後損害額合計 三五〇万七七六三円(原告ら各自につき一七五万三八八一円)

五  弁護士費用

弁論の全趣旨によれば、原告らは、原告ら代理人に本件訴訟を委任し、弁護士費用を支払うことを約したことが認められるところ、本件訴訟の審理の経緯、認容額等諸事情によれば、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は三〇万円(原告ら各一五万円)を認めるのが相当である。

六  よつて、原告らの被告らに対する請求は、原告ら各自に対し、一九〇万三八八一円及びこれに対する平成元年一月一八日から各支払い済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから、この限度で認容し、その余は理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 原田卓)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例